54 分子科学研究所の概要
学術創成研究費
「新しい研究ネットワークによる電子相関系の研究
―物理と化学の真の融合を目指して―」
20世紀後半のエレクトロニクス産業を支えた半導体は,電子の遍歴性に基づいた物性を基盤としているが,分子の 持つ電子の局在性とこの遍歴性の中間的な性質を持つ物質群は「多様な電子相関系物質」として近年物理の分野で大 きなトピックとなっている。電子間の相互作用が強くなると,電子の運動はお互いに強く相関するようになる。これ を強電子相関系と呼んでいる。この強相関は,外部パラメーターのわずかな変化によって様々な相を生じ,これが多 機能性の起源となっている。このため,「強電子相関」の概念は次世代の材料開発に不可欠と言われている。これは, ナノ構造体のように電子相関を恣意的に強めた系で本質的な役割を示す。物理学と化学は,「実空間であれ運動量空間 であれ,各々の旧来のやり方では表現できない電子系」を未開拓領域として持っており,それぞれ協力・融合して,次 世代の物質科学の基礎を支える新概念を構築する必要性が強く認識されるようになった。このような背景から,我が 国の物性科学に関連する五つの研究所,即ち分子科学研究所の他に北から,東北大学金属材料研究所,高エネルギー 加速器研究機構物質構造科学研究所,東京大学物性研究所,京都大学化学研究所が一体となって上記の学術創成研究 を実行している。
まず,共同研究体制を有形の形で実現するために,5カ所の研究室間ネットワーク“ コラボラトリー” の構築が重 点課題の一つとして取り上げられた。新しい研究協力システムである“ コラボラトリー” とは,各研究室の持つ資源
(ブレイン,ハードウエア,ソフトウエア)を研究ネットワーク上の研究室の間で共有化することにより,各研究室が あたかも隣にあるかのような研究環境を提供するものである。具体的には,高エネルギー加速器研究機構物質構造科 学研究所の精密構造解析システムを分子研のオフィスからマシンの状況と計測データを表示する2台のパソコンの画 面を通して,制御と計測を行うものである。分子研では,中村敏和助教授によってこのシステムの運用が実現されて いる。
本学術創成研究では,昨年度から班編制を修正して,主として強相関系の電気伝導性や磁性を取り扱う第一班,ソ フトマテリアルやナノシステム,界面や複合物質系を対象として5研究所間のネットワークを利用した物理学と化学 の融合によって初めて可能となる精密構造解析を行う第二班,高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所を中 心としてコラボシステムの活用とヒューマンインターフェースの益々の充実を図る第三班から構成されている。
今年度は,8月26日に第1回総括班等会議を理研東京事務所で,10月6日と7日に蒲郡で第6回若手の会を開催し た。更に,10月18日から19日にテーマ会議を,これに併せて,18日に第2回総括班等会議を開催した。最後の全体会 議は,1月30日から2月1日の3日間,名鉄犬山ホテルで開催され,参加者全員が成果発表を行った。1月30日には, 第3回総括班等会議が開催され,成果の総括と今後の方針が話し合われた。
このプロジェクトは物理と化学の研究者が多く集まり,共通した対象から周辺の対象に至る広範囲の問題を共に議 論しあい更に多くの共同研究の成果が生まれ,この広い分野の進展に大きな貢献があったと言える。このような異分 野ネットワークの形成が科学の発展に必要であることが痛感された。